庵野秀明監督に多大な影響を与えた和製SF・「さよならジュピター」(1984年)
「日本沈没」「復活の日」で未だに話題に事欠かない日本が誇るSFの大家、小松左京。その大作家が心血注いで制作し見事大コケした名作「さよならジュピター」。
公開された当時から散々叩かれ続けてきた本作ですが、私は今でも大好きな作品です。
そして今現在の国産SFに、そしてあの人に多大な影響を与えてきた作品でもあります。
時は22世紀、人類が太陽系外縁まで開発の手を広げている時代。深刻になっていたエネルギー問題を解決すべく木星を第二の太陽にする「木星太陽化計画」が推し進められていた。
しかし同時期、年々減少している彗星調査のため彗星源の探索に向かった調査船が消息を絶ち、移動性ブラックホールが太陽系に接近していることが判明。
太陽への衝突コースを突き進むブラックホールの軌道を変えるため、太陽化するはずだった木星を衝突させるべく人類は奔走する・・・。
という、SF好きにはたまらない壮大なプロット!これで面白くならない訳がない、と思ってたのに映画は見事なまでに面白くない・・・w
ま、それでも好きなんですけどねw
特撮のデキは今観ても素晴らしいと思います。
特技監督は「ウルトラマン80」や平成ゴジラシリーズの川北紘一監督。日本では初導入のモーションコントロールカメラを駆使し、それまでのSF邦画にはなかったメカ描写を演出しています。
それが如実に表れてるのが映画序盤の旅客宇宙船”TOKYO-Ⅲ”の登場・入港シーン。
”TOKYO-Ⅲ”の旅客パーツが切り離され、木星軌道上のミネルヴァ基地ドックに入港する際カメラが大きくロール回転しますが、ドック内・旅客パーツ・宇宙空間は多重合成。
モーションコントロールで同じタイミングでカメラをロール回転・合成させ、このシーンを完成させています(よーく見るとタイミングが若干ズレてますが)。
この”TOKYO-Ⅲ”のデザインもまた秀逸で、メカデザインは「宇宙戦艦ヤマト」でもメカデザインを担当したスタジオぬえの宮武一貴氏。プロップ製作は当時まだ学生だったオガワモデリング代表・小川正晴氏。
このシーンでこの映画の見どころはほぼ終りですw
因みに、この宇宙船のネーミングが「新世紀エヴァンゲリオン」の第三新東京市の元になったと言われています。
また音楽も素晴らしい。音楽を担当したのは「西部警察PART2」「超時空要塞マクロス」「宇宙戦艦ヤマト完結編」も担当した羽田健太郎先生。
公開当時、小学生だった私はなけなしのお小遣いでサントラレコードを購入しました。壮大なオーケストラのテーマ曲は今でも大好きです。
本作ではマクロスのBGMも流用されてたりします。
主題歌は松任谷由実の「VOYAGER〜日付のない墓標」。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で流れた時は卒倒しましたw
では、なぜつまらない映画になってしまったのか?
まず、よく言われるのが”内容の詰め込み過ぎ”。
この映画のためにノベライズした小説(原作ではない)は文庫本2冊にも渡る超大作。だが2時間の映画はこの小説のダイジェスト的な内容になってしまい、張り巡らせた伏線(火星の地上絵、ジュピターゴースト等)が全く回収されずじまい。
にも拘らず、今では語り草になってしまった3分間も費やした無重力ラブシーン(音楽は良い)。はっきり言って要らない。
そして”テンポの悪さ”。
蛇足的なシーンが挿入歌と共に度々挿入され(地球のジュピタービーチシーン等)、しかも長い。
本筋とは全く関係なく、いきなり始まるサメとの格闘シーンも全然必要性がない。
更には小松先生のワンマン体制。
元々はゴジラの生みの親・東宝の田中友幸氏が「スターウォーズ」に対抗して企画を持ち込んだのが事の発端。
「中途半端なものではなく本格的なSF映画を作りたい」という小松先生の意向が強く働き、本作の構想に発展します。
小松先生は原作・脚本のみならず製作者・総監督としてクレジットされています。映画を制作するために株式会社イオという会社まで設立し、相当な力の入れようだったそうです。
まだ制作も正式決定されていない時点で小松先生は画コンテも作られています。原作者にそこまで深く関わられると、誰も意見できる環境ではなかったように推察されます。
SFの大家とは言っても、結局、映画制作は素人同然なのに・・・。かくして本作は壮大な自主映画に成り果てていったのだと思います。
(補足するとスターウォーズシリーズも2作目「帝国の逆襲」から6作目「シスの復讐」まではジョージ・ルーカスの自己資金による自主制作映画です)
ただ、リアルな和製SF映画を作りたかったという情熱だけはひしひしと伝わってきます。
当初予定されていた「日本沈没」の森谷司郎監督がメガホンを取っていたら、若しくは小松先生が「日本沈没」「復活の日」のように原作提供だけに留めておけば、また違った評価を得ていたかもしれません。
小説版は評価されているだけにこのまま埋もれさせてしまうのは非常に勿体ない。是非、小説版を元に、改めて本作のファンである庵野秀明監督に「シン・さよならジュピター」を作っていただきたいところです。
因みに庵野監督の盟友・樋口真嗣監督は本作では見学をしながら川北組のお手伝いをしていたとか・・・。
余談ですが、「シン・ゴジラ」のゴジラ凍結後の巨災対の歓喜なき反応。いかにも日本的と評価されていますが、私はアレはこの映画のオマージュだと思っています。
木星爆破後、やはり対策本部の面々はインカムを外しながら静かに見送ります。私は「シン・ゴジラ」初見時、すぐにこのシーンを思い出しました。
更に余談ですが、本作でスタッフとして名を連ねてる方が「シン・エヴァンゲリオン劇場版」にも参加されています。
島倉二千六氏。東宝特撮では昔から背景美術に携わり、本作では木星や木星大気圏内の背景画を担当。雲の表現に定評があり、雲の神様と呼ばれている方です。