全世界の人が今観るべき映画・「世界大戦争」(1961年)
昨今、TVではオミクロン株の状況を連日報道していますが、私は何よりウクライナ情勢の方が不安でなりません。
アメリカとロシアが久々に戦火を交えてしまうかもしれない危うい状況。
まさか核戦争にまで発展する愚行はないとは思いたいのですが・・・。
今回のレビュー作品は東宝の「世界大戦争」(1961年)。
もう60年も前の作品ですが、冷戦時の、いつ核戦争になってもおかしくない危うい状況をリアルに描いた、正に全世界の人が今観るべき映画です。
監督は僧侶でもあり、後に「連合艦隊」を手掛けた松林宗恵監督。
特撮は一番脂がのっていた頃の円谷英二特技監督です。
同年公開された「モスラ」同様、ハイレベルな特撮映像で観るものを引き付けます。
本作の都市壊滅シーンが「ウルトラセブン」の最終回に流用されたのは有名な話です。
東宝特撮映画ではありますが、エンターテイメント色はほとんどありません。
重厚且つ刹那的にドラマが展開されます。
この作品の公開当時は冷戦真っ只中。核戦争の危機感が今よりもっと現実的だった頃の映画です。
実際公開直前にはベルリンの壁構築、翌年にはキューバ危機が起こっています。
そんな時期によくこれだけの映画が作れたものだと感心させられます。否、そんな時期だからこそ作られるべくして作られた映画だったのもしれません。
以後あらすじです。
ネタバレになりますので、未見の方はご注意ください。
物語は市井の人々と、世界情勢を交互に織り交ぜながら進んでいきます。
外国人プレス付のハイヤー運転手・茂吉(フランキー堺)は戦後まじめに働き続け、家族と共に幸せに暮らしていた。
そして長女の冴子(星由里子)と、茂吉の家に下宿している航海士・高野(宝田明)が恋仲であり、結婚するつもりであることを知り、驚きつつも祝福する。
その頃、北大西洋で軍事演習を行っていた同盟国(ソ連)エリアに連邦国(アメリカ)の潜水艦が侵入し、緊張感が高まる。
日本政府は両国の関係改善を図るが暗中模索の状態だった。
同時期、朝鮮半島北緯38度線では南北の衝突が激化、小規模ながら核兵器が使用される事態が発生し、連邦国・同盟国両陣営の緊張が一気に高まる。
日本では総理が一時病に倒れるが、身を削りながらも緊張緩和のための努力をしていた。
両国のミサイル基地では装置の故障や、雪崩による衝撃のための誤作動でミサイル発射の危機に直面するが、戦争だけは避けなければと両国ともそれぞれの基地司令の働きにより危機を回避していた。
朝鮮半島では停戦協定が結ばれ、危機を脱したかに見えたが、ベーリング海で両国の戦闘機が戦闘状態に突入。遂に核ミサイルが使用される。
これをきっかけに次々と世界各国で両陣営の対立が激化してしまう。
日本政府は核兵器の使用だけはしないように訴え続けるが、日本でもミサイル攻撃の警戒が高まり、街は逃げ惑う人々でパニックに陥る。
冴子は前日航海に旅立った高野に、覚えたての無線機でモールス信号を使い最後の別れを告げていた。
「サエコ・サエコ・コウフクダッタネ」「タカノサン・アリガトウ」
茂吉はどこに行っても核ミサイルからは逃れられないと、最後の晩餐を家族と共に過ごしていた。
そして理不尽さにやるせなくなり物干し台で泣き叫ぶ。
かあちゃんには別荘建ててやんだ。
冴子にはすごい婚礼させてやんだ。
春江はスチュワーデスになるんだし、おめぇ、
一郎は大学に入れてやるんだよ。
お、俺の行けなかった、おめぇ、大学によぉ・・・。
そしてその夜、東京に核ミサイルが飛来、壊滅する。
洋上では核爆発の影響を受けていなかった高野たちが、放射能に汚染されることを覚悟のうえで東京へ戻ることを決意していた。
長期療養から復帰していた船員・江原(笠智衆)が呟く。
人間は誰でも生きていく権利があるというのになぁ・・・。
それを同じ人間が奪い取るなんて、どっか間違ったんだ。
みんなが今、「東京へ帰りたい」と言うように
「生きていたい」と言えばよかったんだ。
もっと早く人間みんなが声を揃えて
「戦争は嫌だ、戦争はやめよう」と言えばよかったんだ。
人間は素晴らしいもんだがなぁ・・・。
一人もいなくなるんですか、地球上に・・・。
本当に恐ろしく悲しくなる映画です。
しかしこの映画で描かれたように戦争の悲惨さ恐ろしさを後世に語り継がなければなりません。
だからこそ、より多くの人に観ていただきたい作品です。特に若い人に。
非常に生々しい内容のため、リメイクはちょっと避けてほしくはありますね。
ミニチュア特撮ぐらいが丁度いいかもしれません。
この映画は勿論フィクションではありますが、作中で描かれたような核ミサイル発射未遂事件は度々起きていたようです。
いつ核戦争が起こってしまってもおかしくない現実が実際にあった訳です。
冷戦が終結してだいぶ経ちますが、戦争の危険性はむしろ高まっているように思います。冒頭に述べたウクライナ情勢に然り、台湾情勢、ぞして北朝鮮・・・。
核兵器も今は小型化が進み、小規模な現実的に「使える核兵器」開発が進んでいると聞きます。
兵器として存在している以上、使いたい人間はいるということです。
作中でも高野が言ってました。
「日本人は蒙古によって世界で初めて戦争で火薬の洗礼を受け、初めて原爆の洗礼を受け、ビキニ環礁で初めて水爆の洗礼を受けた唯一の民族」
だからこそ後世に犠牲者を出さない為にも戦争の恐ろしさ、核の恐ろしさを訴え続けなければならないと、この作品を観るたびに思い返すのです。
庵野秀明監督に多大な影響を与えた和製SF・「さよならジュピター」(1984年)
「日本沈没」「復活の日」で未だに話題に事欠かない日本が誇るSFの大家、小松左京。その大作家が心血注いで制作し見事大コケした名作「さよならジュピター」。
公開された当時から散々叩かれ続けてきた本作ですが、私は今でも大好きな作品です。
そして今現在の国産SFに、そしてあの人に多大な影響を与えてきた作品でもあります。
時は22世紀、人類が太陽系外縁まで開発の手を広げている時代。深刻になっていたエネルギー問題を解決すべく木星を第二の太陽にする「木星太陽化計画」が推し進められていた。
しかし同時期、年々減少している彗星調査のため彗星源の探索に向かった調査船が消息を絶ち、移動性ブラックホールが太陽系に接近していることが判明。
太陽への衝突コースを突き進むブラックホールの軌道を変えるため、太陽化するはずだった木星を衝突させるべく人類は奔走する・・・。
という、SF好きにはたまらない壮大なプロット!これで面白くならない訳がない、と思ってたのに映画は見事なまでに面白くない・・・w
ま、それでも好きなんですけどねw
特撮のデキは今観ても素晴らしいと思います。
特技監督は「ウルトラマン80」や平成ゴジラシリーズの川北紘一監督。日本では初導入のモーションコントロールカメラを駆使し、それまでのSF邦画にはなかったメカ描写を演出しています。
それが如実に表れてるのが映画序盤の旅客宇宙船”TOKYO-Ⅲ”の登場・入港シーン。
”TOKYO-Ⅲ”の旅客パーツが切り離され、木星軌道上のミネルヴァ基地ドックに入港する際カメラが大きくロール回転しますが、ドック内・旅客パーツ・宇宙空間は多重合成。
モーションコントロールで同じタイミングでカメラをロール回転・合成させ、このシーンを完成させています(よーく見るとタイミングが若干ズレてますが)。
この”TOKYO-Ⅲ”のデザインもまた秀逸で、メカデザインは「宇宙戦艦ヤマト」でもメカデザインを担当したスタジオぬえの宮武一貴氏。プロップ製作は当時まだ学生だったオガワモデリング代表・小川正晴氏。
このシーンでこの映画の見どころはほぼ終りですw
因みに、この宇宙船のネーミングが「新世紀エヴァンゲリオン」の第三新東京市の元になったと言われています。
また音楽も素晴らしい。音楽を担当したのは「西部警察PART2」「超時空要塞マクロス」「宇宙戦艦ヤマト完結編」も担当した羽田健太郎先生。
公開当時、小学生だった私はなけなしのお小遣いでサントラレコードを購入しました。壮大なオーケストラのテーマ曲は今でも大好きです。
本作ではマクロスのBGMも流用されてたりします。
主題歌は松任谷由実の「VOYAGER〜日付のない墓標」。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で流れた時は卒倒しましたw
では、なぜつまらない映画になってしまったのか?
まず、よく言われるのが”内容の詰め込み過ぎ”。
この映画のためにノベライズした小説(原作ではない)は文庫本2冊にも渡る超大作。だが2時間の映画はこの小説のダイジェスト的な内容になってしまい、張り巡らせた伏線(火星の地上絵、ジュピターゴースト等)が全く回収されずじまい。
にも拘らず、今では語り草になってしまった3分間も費やした無重力ラブシーン(音楽は良い)。はっきり言って要らない。
そして”テンポの悪さ”。
蛇足的なシーンが挿入歌と共に度々挿入され(地球のジュピタービーチシーン等)、しかも長い。
本筋とは全く関係なく、いきなり始まるサメとの格闘シーンも全然必要性がない。
更には小松先生のワンマン体制。
元々はゴジラの生みの親・東宝の田中友幸氏が「スターウォーズ」に対抗して企画を持ち込んだのが事の発端。
「中途半端なものではなく本格的なSF映画を作りたい」という小松先生の意向が強く働き、本作の構想に発展します。
小松先生は原作・脚本のみならず製作者・総監督としてクレジットされています。映画を制作するために株式会社イオという会社まで設立し、相当な力の入れようだったそうです。
まだ制作も正式決定されていない時点で小松先生は画コンテも作られています。原作者にそこまで深く関わられると、誰も意見できる環境ではなかったように推察されます。
SFの大家とは言っても、結局、映画制作は素人同然なのに・・・。かくして本作は壮大な自主映画に成り果てていったのだと思います。
(補足するとスターウォーズシリーズも2作目「帝国の逆襲」から6作目「シスの復讐」まではジョージ・ルーカスの自己資金による自主制作映画です)
ただ、リアルな和製SF映画を作りたかったという情熱だけはひしひしと伝わってきます。
当初予定されていた「日本沈没」の森谷司郎監督がメガホンを取っていたら、若しくは小松先生が「日本沈没」「復活の日」のように原作提供だけに留めておけば、また違った評価を得ていたかもしれません。
小説版は評価されているだけにこのまま埋もれさせてしまうのは非常に勿体ない。是非、小説版を元に、改めて本作のファンである庵野秀明監督に「シン・さよならジュピター」を作っていただきたいところです。
因みに庵野監督の盟友・樋口真嗣監督は本作では見学をしながら川北組のお手伝いをしていたとか・・・。
余談ですが、「シン・ゴジラ」のゴジラ凍結後の巨災対の歓喜なき反応。いかにも日本的と評価されていますが、私はアレはこの映画のオマージュだと思っています。
木星爆破後、やはり対策本部の面々はインカムを外しながら静かに見送ります。私は「シン・ゴジラ」初見時、すぐにこのシーンを思い出しました。
更に余談ですが、本作でスタッフとして名を連ねてる方が「シン・エヴァンゲリオン劇場版」にも参加されています。
島倉二千六氏。東宝特撮では昔から背景美術に携わり、本作では木星や木星大気圏内の背景画を担当。雲の表現に定評があり、雲の神様と呼ばれている方です。
「大怪獣のあとしまつ」公開記念!松竹第一回怪獣映画「宇宙大怪獣ギララ」(1967年)
まさかの初回レビューがこの作品になるとは・・・。
松竹が満を持して放った怪獣映画一作目「宇宙大怪獣ギララ」(1967年)です。
今、いろんな意味で世間を賑わせている松竹・東映の「大怪獣のあとしまつ」。
このいいタイミングで過去の松竹怪獣映画を取り上げようっていうあざとい目論見ですw
この映画の鑑賞は二回目。初回は”Hulu”で観ました。かなり初期の頃からHuluにはラインナップされてた覚えがあります。
初回観賞時は只々衝撃しかなく(悪い意味で)長らく封印していましたが、今回改めて観返しました。
独特のゆるさがあり、未だにカルト的な人気があったりする珍作ですが、まともに全編観返すのは正直しんどかったですw
ゴジラやガメラと差別化を図りたかったのか、前半はずーっと宇宙が舞台のSF映画に徹しています。
火星探検に向かう主人公一行。だが空飛ぶ円盤に邪魔され、搭乗機【AABガンマー号】のエンジンノズル付近に付着した謎の物質(ギララの卵?)を持ち帰る。
ここまでのくだりがとにかく長い!特に大した緊迫感もなく、どうでもいいドラマが間の抜けた単調なBGMと共にゆるーく展開されるので、とにかく退屈な事この上ない。
「いったい何を見せられてるんだ?」と思ってた頃にようやく怪獣が出てくる。88分の映画なのに50分頃になってようやく登場。
そして、いつの間にか命名された宇宙大怪獣ギララと自衛隊との攻防戦が繰り広げられる・・・のだが、特撮があまりにもショボい。
公開当時は「ウルトラQ」に端を発した怪獣ブーム真っ只中。東宝は「キングコングの逆襲」「ゴジラの息子」。TVでは「ウルトラマン」「サンダーバード」が人気を博していた時代。
松竹一発目の怪獣映画ということで大目に見てあげよう・・・とも言えない酷さ。
一度壊してまた作り直したかのような建物ミニチュア。砲撃しただけで砲身が飛ぶ謎仕様の戦車。どこかで見たことあるようなレーザー砲車。そしてどこを撮りたいのか分からないカメラワーク(コレは編集の粗さだと思うが・・・)。
更にそこに盛り上がりのかけらもない間抜けなBGMが延々と流れ、ホントにある種の洗脳ムービーのような様相を呈してくる。
ギララを倒す兵器を作るために月ステーションへ向かう主人公一行。その帰途、またもや空飛ぶ円盤が邪魔してくるが、この円盤の正体も目的も最後までさっぱり分からない。
その間栃木や群馬の田舎町ばかりを狙う宇宙大怪獣。なんだかんだでギララを倒し、金髪ネーチャンが「愛と勇気をギララが教えてくれました」という謎セリフを吐き、松竹映画だからか富士山をバックに主人公カップルが手を繋ぎ終演。
とにかく突っ込みどころ満載で、大した盛り上がりもなく、ひたすら長く感じる88分間でした。
ただし、見どころがないこともなく、珍しいF-104Jスターファイターの搭乗実景シーン(自衛隊が協力してた?)や、仮面ライダーで有名になる前の藤岡弘、氏のあどけない笑顔などはよかったです(初回観賞時は気付きすらしなかった・・・)。
エド・ウッド好きな私は、こういうチープな作品、決してキライじゃありませんが、また長らく封印すると思いますw
実はこのギララ、「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」(2008年)という続編がありまして、コチラもアマプラ、Hulu、U-Nextで鑑賞できます。
この続編もなかなかぶっ飛んだ内容でして、監督があの川崎実監督なんで、まぁ、察してくださいw
主演の加藤夏希はめっちゃカワイイです♪
こういう過去作を知っていると、「大怪獣のあとしまつ」もきっと楽しめるハズですw